気胸:胸腔ドレーン(トロッカー)挿入
持続的な脱気を要する成人の気胸で、胸腔内にドレーンを留置して水封式排液装置へ接続する手技である。
本記事は医療者向けの学習用メモであり、実際の施行は各施設のプロトコルと指導医の指示に従うこと
成人向け・鈍的剥離法の実践メモ/確認日 2026-09-27
適応と禁忌/緊急度[1]
ドレーンが必要かを先に判断する。径・切開長・吸引圧は目安であり、患者と使用機器に合わせる。
- 緊張性気胸:呼吸・循環不全があれば画像を待たず、訓練を受けた医師が緊急脱気を行い、胸腔ドレーンへつなぐ。
- 安定した気胸:症状、低酸素血症、基礎肺疾患、持続するエアリーク、陽圧換気の有無から判断する。すべての気胸にドレーンが必要なわけではない。
- 慎重に判断する状況:出血傾向、抗血栓薬、穿刺部の感染、癒着・限局性気胸、解剖が不明瞭な場合は経験者へ相談する。救命的な脱気をこれらの確認で遅らせない。
「トロッカー」は器具の名称として扱う。鋭い内筒で胸壁を突き抜く方法は臓器損傷の危険があり、行わない。本記事は鈍的剥離で経路を作る手技を扱う。
準備:物品と患者の確認[1][2][3]
助手とタイムアウトを行い、患者・左右・適応・画像・アレルギーを確認する。
小口径ドレーンのSeldinger法は、以下の鈍的剥離法とは異なる。選んだ器具の電子添文と指導者の手技を確認する。
体位とランドマーク[4][1]
仰臥位を基本に、耐えられる範囲で患側上肢を挙上する。マーキング後は体位を変えない。
- Safe triangle:大胸筋外側縁、広背筋前縁、第5肋間の高さを下限とする範囲を確認する。第4〜5肋間・中腋窩線付近を目安に、肋骨を数える。
- 肋骨上縁を通る:肋骨下縁の肋間動静脈・神経を避ける。肋骨の位置を確かめ、その上縁を越える経路とする。
「第9肋間より上なら安全」ではない。低位刺入は横隔膜・肝・脾損傷につながるため、safe triangleと画像で位置を確認する。
挿入手順[5][6][3][4][7]
十分な鎮痛と清潔操作のもとで行う。抵抗や想定外の深さがあれば、力を加えず止まる。
局所麻酔・仮穿刺
皮膚・皮下から予定経路、骨膜周囲、壁側胸膜を十分に麻酔する。血管内注入を避けて少量ずつ注入する。空気を吸引した深さを記録し、針先を少し戻して壁側胸膜を麻酔する。
コツ:刺入点をペンで示し、皮膚から胸腔までの深さを確認する。
やりがちな失敗:「皮膚と胸膜だけ、約1mLで十分」と固定しない。空気が引けなければ深追いせず、位置・画像を再評価する。
皮膚切開
ドレーン径と皮下組織に合わせて必要な長さを切開する。20Fr前後で約1.5〜2cmは一例であり、メスを胸腔内へ深く刺さない。
コツ:麻酔が効いたことを確認してから切開する。
やりがちな失敗:狭すぎる創へ力で押し込む、または必要以上に創を広げる。
鈍的剥離
仮穿刺で確認した経路を目安に、肋骨上縁で皮下・肋間筋を鈍的に分ける。胸腔への到達を確認し、ドレーンが通る経路を作る。外科的手技では、可能な径なら指で胸腔内を確認する。
コツ:確認済みの深さを意識し、先端が少し入っただけで押し込まない。
やりがちな失敗:盲目的に角度を変えて掘る、あるいは「同じ角度」に固執して抵抗に逆らう。
ドレーン挿入
作成した経路からドレーンを進め、全側孔を胸腔内へ置く。気胸では前方・肺尖方向を目安とするが、縦隔へ向けず、抵抗があれば止める。
コツ:胸壁厚と側孔位置から留置深度を決め、皮膚位置の目盛を記録する。
やりがちな失敗:鋭い内筒を外筒の先から突出させて突き刺す。器具ごとに異なる内筒操作を、共通の押し込み手順として扱わない。
クランプ・接続
準備済みの水封式回路へ速やかに接続し、開通・接続の固定を確認する。鉗子は準備するが、常時クランプする手順にはしない。
コツ:接続操作は助手と分担し、回路を閉塞・大気開放したままにしない。
やりがちな失敗:エアリークが続くドレーンをクランプする。緊張性気胸を招くため、例外的な操作は専門医の監督下に限る。
固定・縫合
固定糸でドレーンを皮膚へ確実に固定し、被覆材・テープを併用する。抜去時用の閉創糸を置く場合は、固定糸と区別して管理する。
コツ:創の中心で固定し、固定位置・深度と糸の役割を記録する。
やりがちな失敗:テープだけに頼る、糸で管を締めつぶす。垂直マットレスなどの閉創糸を留置時に結ぶかは施設の方法に従い、管を圧迫しない。
トロッカー製品の内筒を進める・抜くタイミングは製品依存である。ここでは鋭い内筒での穿通を推奨しない。
挿入後の確認[1][3][8][9]
患者の呼吸・循環と回路を確認し、胸部X線で再膨張、管の位置、合併症を評価する。
- 水封部:呼吸性移動と気泡を観察する。呼吸性移動があれば開通の手がかりとなるが、消失は再膨張だけでなく屈曲・閉塞・逸脱でも起こる。
- 吸引部:湿式吸引制御槽の穏やかな気泡は吸引作動の所見であり、水封部のエアリークとは別である。乾式・デジタル式では表示と確認法が異なる。
- 吸引圧:挿入直後のルーチン吸引は避け、水封のみを検討する。必要時は指示された低圧吸引(例:−10〜−20cmH₂O)を使用する。湿式は吸引制御槽の水位で設定する。
- 観察と記録:従来型ボトルは胸部より低く、直立させる。固定深度、エアリーク、呼吸性移動、排液、吸引設定、疼痛を記録・申し送る。
吸引を一時停止して観察する場合も、機器の説明書に従って空気の排出経路を確保する。患者側の管や通気口を塞がない。
合併症とトラブルシューティング[1][3][8]
患者が悪化したら回路だけを見続けず、応援を呼び、呼吸・循環を評価する。
| 症状 | 原因 | 対応 |
|---|---|---|
| 急な呼吸困難・低酸素・血圧低下 | 緊張性気胸、閉塞、出血、再膨張性肺水腫など。 | 直ちに応援を呼び、回路閉塞と緊張性気胸を評価する。不安定ならX線を待たず救命処置を優先する。 |
| 呼吸性移動がない | 肺の再膨張、屈曲・閉塞、胸腔外への逸脱。 | 管全長、接続、深度を確認し、必要に応じてX線を行う。盲目的な押し込みはしない。 |
| 皮下気腫・気泡が増える | 持続する肺からの漏気、接続不良、側孔の皮下逸脱。 | 接続・閉塞・固定深度を確認する。進行する場合は経験者へ連絡し、画像で評価する。 |
| ドレーンが浅い/抜けた | 固定不良、牽引、患者の動き。 | 押し戻さない。完全脱落なら創を清潔な閉鎖性被覆材で覆い、全身状態を確認する。必要に応じ閉創し、X線で再留置の要否を判断する。不安定なら処置を優先する。 |
| 血性排液・強い疼痛・ショック | 肋間血管、肺、横隔膜・腹腔内臓器の損傷など。 | 臓器・血管損傷を疑って直ちに専門科へ連絡する。自己判断で管を抜かず、蘇生と緊急評価を行う。 |
| 再膨張後の咳・低酸素 | 再膨張性肺水腫。 | 吸引中なら中止して緊急評価・呼吸管理を行う。ただし気胸で漏気が続く管を反射的にクランプしない。 |
| 発赤・熱感・膿性排液 | 刺入部感染、胸腔内感染。 | 創と全身状態を評価し、培養・抗菌薬・ドレーン管理を専門科と相談する。 |
胸水の治療的穿刺では1回1.5Lを上限の目安とし、症状が出ればそれ以前に止める。これは気胸の脱気量の上限ではなく、留置ドレーンの排液速度は別に指示する。
研修医がハマるポイント[6][1]
挿入できたことと、正しく機能していることは別である。
- 空気が引けない:麻酔針の深さだけを信じて進めない。位置、胸壁厚、癒着・限局性気胸、画像を再評価する。
- 側孔と先端を混同する:先端が胸腔内でも側孔が皮下に残れば不十分である。深度目盛の起点も製品で異なる。
- 抜けた管を再挿入する:外に出た管は押し戻さない。必要なら新しいドレーンを別の部位に留置する。
- いきなりドレーンを入れる:安定した胸水で診断が未確定など、まず画像と診断的胸腔穿刺で内容を確認する状況がある。緊張性気胸の緊急脱気とは分ける。
数値や器具名を暗記するより、左右・位置・深さ・側孔・回路の開通を一つずつ確認する。
参考文献
- BTS Clinical Statement on pleural procedures(2023)
- Cardinal Health:Argyle Fukuroi トロッカーカテーテル 製品カタログ
- BTS Online Appendix 8:Chest drain bottle / underwater seal
- NHS Scotland:Chest drain insertion(成人外傷の手技)
- BTS Online Appendix 1:Local anaesthetic for pleural procedures
- BTS Online Appendix 4:Intercostal drain insertion
- コキュトレ:胸腔ドレナージの手技、手順について(2021)
- BTS Online Appendix 10:Suction and digital chest drain devices
- Teleflex:Pleur-evac Rain Series Wet Suction / Wet Seal